『書燈』 No.20(1998.4.1)

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購入資料案内 行政裁判所判決録  (資料受入係)


 明治憲法のもとでは、行政の違法な処分によって権利侵害をうけた者は、通常の裁判所(司法裁判所)ではなく、もっぱら行政事件を管轄する行政裁判所で争うこととされていた。行政裁判所は、明治憲法に根拠を置く特別裁判所の一つであったが、全国でただ一箇所、東京に置かれていた一審かつ終審の裁判所で、出訴できる事項も法律で限定されたため、国民の権利救済機関としてはきわめて不十分な制度ではあった。しかし、そうした限界をもちながらも、戦後新憲法の制定に伴って廃止されるまでの56年間の間、租税関係、営業免許関係、水利土木、土地の官民有区分などの分野で多くの判決を積み重ねてきた。本資料は、この行政裁判所が所蔵していた『行政裁判所判決録』の復刻版である。

 これらの判決は、行政法研究者にとって、戦前の唯一の行政判例集として、日本の行政法理論史を研究するうえで不可欠の素材であることはいうまでもない。また、判決の行間からは、明治憲法下の行政官僚と「臣民」との関係のあり方やその下での行政運営の実態といった法理論以外の側面も読みとることができる。同時に、多くの判決が市民の経済・産業活動に関わる分野に関するものであるため、わが国の経済社会の「近代化」の過程を見るうえでも参考になると思われる。本学には、行政社会学部に全国でもまれにみる数の行政法関係教官を抱えているが、本資料は、これら行政法関係教官だけではなく、戦前の日本を研究対象とする政治学、行政学、さらには歴史学、経済史の分野の教官にとっても有益な資料になるであろうことが期待される。


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