福島大学附属図書館報 『書燈』 No.28(2002.4.1)

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大塚久雄文庫開設について
図書館専門員 渡辺 武房

 大塚久雄文庫がようやく開設の運びとなり、“何でもあるが何にもない”本館として、大きな目玉ができたとたいへんよろこんでおります。「福島大学にはもったいないよ」という声も聞かれましたが、樋口徹・渡辺義夫両館長(当時)などのご努力によって、門下生を通して縁が深く、東京からそう遠くもない福島大学に収まることになったわけです。

 大塚久雄先生(1907.5-96.7)は、個性的な近代市民社会成立史観(大塚史学)を確立し、平成4(1992)年に文化勲章を受章した経済史学の泰斗で、主な著作に『近代欧洲経済史序説』『近代化の人間的基礎』『共同体の基礎理論』などがあります。

 文庫は本館2階の一室にあり、そこには大塚先生が愛用された机と椅子が置かれ、肖像が飾られ、その周囲の書架には先生旧蔵の下記の図書・資料が収められています。先生ご自身の著作物はもちろんのこと、よく読みこまれてボロボロになったヴェーバー、マルクス、アンウィンの諸書があります。資料のなかには手書きの原稿、克明に書き取られた若き日の研究ノートなどがあり、先生の思索・研究のあとが見られます。

 少年時代(京都師範附小第二教室5・6学年、大正7・8年)の日記からは、当時の京都のようす、学校のありさまが分かるばかりではなく、満身創痍(左足上腿部から切断手術、三度の胸部手術)のなかで、あれほどの仕事を残された先生の、その「気迫」と「根性」のルーツが、この「第二教室」時代にあったのではないかということに気づかされます。ご来訪の時にはこれらをぜひご覧いただきたいと思います(常時、一般公開中)。

大塚久雄文庫収蔵冊・点数

〈一般資料〉

和図書4,919冊 洋図書1,139冊 和雑誌183種 洋雑29種 抜刷1,567冊 大塚久雄著作(抜刷)115冊 名簿54冊 諸資料224点

〈個人資料〉

原稿15点 講演速記録22点 校正刷(ゲラ)17点 ノート75冊 書簡・ハガキ21ファイル その他99点

 平成9(1997)年の4月に受贈して以来、5年余をかけて宮田至君とともに整理作業に当たりましたが、ここに冊子目録(A4判、426p)・文庫案内パンフも完成し、それらは各県の県立図書館、大学図書館などの主要な図書館に配布いたしました。また、それを本館のホームページにも掲載いたしましたのでご活用いただきたいと思います。

 大塚久雄文庫開設を祝して一連の文庫開設記念行事を催しました。1月25日には、関口尚志先生(フェリス女学院大教授、東大名誉教授)を講師に招き、開設記念講演会を本学において開催しました。講演は「大塚久雄の人と学問及び今後の社会科学にとっての大塚の重要性について」話されたもので、寒空にもかかわらず集まった参加者(150名)は、熱心に聴講しておりました。

 また、開設日に向けて隣室も使った特別展示を行いました。そこには大塚先生の主要な著作、よく読み込まれた洋書・聖書、日記、ノート、アルバムなどを展示しました。何本も引かれた傍線を見て、その徹底した勉強ぶりに驚嘆の声があがっておりました。

 文庫はこれで終わったのではなく、今後も育てていかなくてはなりません。大塚久雄シンポジウムの開催、研究論集の発刊などを夢見ています。当面、すでに届けられている大塚久雄関係の図書・論文の整理、破損した書物の電子媒体への変換、音声テープのCD化などに取り組みます。

 地元紙を中心にマスコミもていねいに報道してくれ、私もテレビに生出演するという初体験をいたしました。図書・資料のなかに長く身を置きますと親しみも増すものです。折をみて目録を携えて所沢に墓参したいと考えています。また、開設を見ずに交通事故で亡くなられた渡辺元館長の所にも報告に出掛けようと思っています。

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