福島大学附属図書館報 『書燈』 No.30(2003.4.1)

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「電子ジャーナル」ってナニ?
福田 一彦

 むかしばなし: 年をとると昔話がしたくなると言いますが、私もそういう年齢になったということでしょうか。私が福島大学に赴任したのは15年前ですが、まず感じたのは物と情報の乏しさでした。ほしい書籍が見つからず、注文しても届くのに3〜4週間もかかりました。当時Amazon.comはありません。私の専門は生理学と心理学の境界領域ですので、医学系雑誌の情報は欠かせませんが、学内では見たい雑誌が手に入りません。当時はよく県立医大の図書館を利用していましたが、頻繁に通える距離ではありません。これは研究者にとっては死活問題です。そこで、福島大学に来てまずやったことは、データベースへの接続でした。当時は、インターネットも無ければ学内LANもほとんど整備されていない状況でしたので、研究室のパソコンを内線電話で(当時、外線は交換手経由!)情報処理センターにつなぎ、専用回線経由で東北大学の大型計算機センターに接続して、そこから大学間ネットワーク(ああ懐かしい)を経由して学術情報センター(現在の国立情報学研究所)や筑波大学につないで文献検索を行いました。データベースの検索後は本学の図書館に出かけて行って複写依頼をするのですが、書類に手書きしなければならず、これが結構面倒で、また当時は複写物が届くまでに2週間くらいかかることも珍しくありませんでした。最近では、データベース検索から文献複写の申し込みまで研究室からオンラインで出来ますし、早いときには2日で複写物が届くこともあります。その意味では、地理的なハンディキャップをほとんど意識しないで済むようになりました。そう、とりあえず現状に満足していたのです。「電子ジャーナル」が登場するまでは!

電子ジャーナル: ところで、本題の「電子ジャーナル」について私も、それ程良く分かっているわけではないのですが、電子ジャーナル(online journal, electronic journal)とはどんな物で、どこが便利でどこが不便なのかについて、分かる範囲で簡単にお話してみたいと思います。紙媒体の雑誌の文字・画像情報全てを電子的に(主にネットワーク上に)再現したものを電子ジャーナルと呼んでいます。ただし、単なる再現ではなく、電子情報の特徴を生かして雑誌内外の関連情報へのリンクが張られたりしている場合もありますし、電子媒体でしか存在しない「本当の」電子ジャーナルもあります。前半でお話した、文献データベースには、文献の書誌情報や要約が収録され、それが検索対象となっていて要約までアクセスすることが可能ですが、論文自体が必要な場合には、複写サービス等、別の手段を用いる必要があるわけです。ところが、電子ジャーナルでは、検索を行った結果、即座に論文自体が手に入ります。これはとても便利です。形式は主にpdfかhtmlで、pdfの場合、印刷すれば冊子体とほとんどかわりません。では、全てがバラ色かというと必ずしもそうではありません。文献データベースは主要雑誌を網羅していますが、電子ジャーナルは出版社(グループ)ごとにしか検索することが出来ませんし、アクセス権についてもグループごとにまちまちです。完全に無料配布されているもの、一定期間以前に出版された論文に限って全文を無料配布しているもの、紙媒体の雑誌自体を購入している機関の構成員のみアクセス可能なもの、要約までなら見られるもの、また、登録が必要なものなど色々あるようです。契約条件の変更で突然アクセスできなくなることもあります。このような「不統一・不安定性」が最大の短所ですが、今後改善されていくのではないでしょうか。現在、本学でアクセス可能なのは、Blackwell Publishers(約260誌)、Blackwell Science(約420誌)、Springer-Verlag Link(約500誌)、Wiley InterScience(約300誌)等で、来年はElsevier Science Direct(約1200誌)が加わります。アクセサビリティの高い電子ジャーナルの登場により、別刷りの流通方式も変わりつつありますし、雑誌のImpact Factorなどの格付けも影響を受け変化していくのではないでしょうか。              (教育学部助教授)

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